大卒でタクシードライバーになるのはもったいない?

大卒の就職先といえば、一般企業や公務員を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし最近では、新卒でタクシードライバーとして働く人が増えてきています。「タクシードライバー=年配の仕事」というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際には若手が活躍できる業界へと変わりつつあります。特に、訪日外国人向けタクシーやケア輸送サービスの拡大によって、タクシー業界は新しい働き手を求めている状況です。

では、「大卒でタクシードライバーになるのはもったいないのか?」という疑問について、大卒でタクシードライバーになるメリットやタクシードライバーの働き方を紹介します。

新卒でタクシードライバーになる人が増えているって本当?

実際に、新卒でタクシードライバーになる人は増えています。令和5年度には、全国の155事業者で1,068人の新卒者が採用されました。これは前年よりも15.6%の増加となっており、特に東京では799人が新卒としてタクシー業界に就職しています。

この背景には、タクシー業界の変化が大きく影響しています。訪日外国人の増加に伴う観光タクシーの需要や、高齢化社会におけるケア輸送サービスの広がりにより、若くて柔軟に対応できる人材が求められているのです。こうした需要の拡大とともに、タクシードライバーの働き方や待遇も改善されてきています。

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「定時制乗務員数・新卒者乗務員採用状況 令和5年3月末現在」(http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/teijiseijyoumuinr5.pdf)

大卒でタクシードライバーになるメリット

同世代よりも高い年収が期待できる

タクシードライバーの給与は歩合制が基本で、「頑張った分だけ収入が増える」仕組みになっています。給与が低いと思われがちですが、全国のタクシードライバーの平均年収は約420万円で、イメージほど悪いわけではありません。

また、東京では約586万円となっており、これは東京都内の全産業の男性労働者の平均年収(581万円)を上回っています。ほかの主要エリアでは、大阪では約487万円、神奈川で約425万円となっています。中には年収700万円〜800万円を稼ぐ人もおり、トップクラスのドライバーになると1,000万円を超えることもあります。

また、20代前半の給与を比較すると、タクシードライバーの年間推計額が約416万円なのに対し、全産業平均は約335万円と、実はタクシードライバーのほうが年収が高いというデータも。「同世代より年収が高い」「若いうちからしっかり稼げる」というのは、大きなメリットの1つです。

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「タクシー運転者賃金・労働時間の現況 令和5年 賃金構造基本統計調査」(http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/tinginR5.pdf)

休日が多く、自分の時間をしっかり確保できる

タクシードライバーの中でも最も多い勤務形態が「隔日勤務」です。この働き方では、1回の勤務時間は長いものの、その分翌日はしっかり休むことができるため、休日の多さが大きな魅力となっています。月に12~13回の勤務で済み、1か月の半分以上が休日となるため、一般企業の週休2日制と比べてはるかに多くの自由な時間を確保できます。

このまとまった休みを利用して、趣味や旅行を楽しむことも可能です。例えば、連休を活用して旅行に出かけたり、資格取得や副業に時間を充てることもできます。タクシードライバーとして働きながら、将来の夢を叶えるための準備を進める人も多く、学び直しやクリエイティブな活動に挑戦する人もいます。勤務と休日のバランスをうまく活用すれば、仕事だけでなくプライベートの充実も実現しやすい働き方といえるでしょう。

未経験でも安心して始められる

タクシードライバーとして働いている人の約70%は未経験からのスタートであり、タクシー会社の多くが研修制度を充実させています。新卒で入社する場合、会社が二種免許の取得をサポートしてくれるところが多く、運転技術だけでなく、接客や安全運転の知識もしっかり学べるため、未経験でも安心して仕事を始めることができます。

また、新卒でタクシードライバーになった人の離職率は約10%と、他業種の新卒平均(約30%)と比べて低くなっています。これは、安定した給与体系や柔軟な働き方が整っているため、長く続けやすい環境があることを示しています。特に、新人の間は最低給与保証がある会社も多く、一定の収入を確保しながら成長できる点も魅力です。未経験でも着実にステップアップできる制度が整っているため、初めての就職でも安心して挑戦できる仕事といえるでしょう。

コミュニケーションが磨けるが、人間関係のストレスは少ない

タクシードライバーは、毎日さまざまな乗客と接する仕事です。ビジネスマンや観光客、高齢者など、多様な人々と会話を交わしながら運転するため、自然とコミュニケーション能力が向上します。特に訪日外国人の増加に伴い、英語や中国語などの語学力を活かす場面も増えており、接客スキルを磨きながら国際的な視点を持つことも可能です。

一方で、オフィスワークのように上司や同僚と頻繁にコミュニケーションを取る必要がないため、職場の人間関係に悩まされることが少ないのもメリットです。基本的に一人で業務を行うため、過度な上下関係や社内政治に巻き込まれることがなく、自分のペースで働ける環境が整っています。乗客との接客はあるものの、一度きりの出会いが多く、特定の人間関係に縛られることはほとんどありません。人と接する仕事をしながらも、余計なストレスを抱えにくい働き方ができる点は、タクシードライバーならではの魅力の一つといえるでしょう。

将来的な独立やキャリアアップの可能性がある

タクシードライバーの経験を積むことで、個人タクシーとして独立する道も開けます。個人タクシーになると、会社に所属せずに自分のペースで働くことができ、より自由な働き方が実現できます。また、タクシー会社の管理職や運行管理者など、キャリアアップの道も用意されており、長期的なキャリア形成が可能です。

このように、タクシードライバーには単に運転をするだけでなく、多くのメリットがあります。収入面だけでなく、ライフスタイルに合わせた働き方やキャリアの可能性も考慮すると、大卒者にとっても十分に魅力的な選択肢の一つといえるでしょう。

タクシードライバーの働き方について

一般的な勤務形態

タクシードライバーの勤務形態は主に3種類あります。

隔日勤務

隔日勤務は、1回の勤務時間が長いものの、その分翌日が完全に休みになる働き方です。1勤務あたりの拘束時間は14~16時間程度ですが、月に12~13回の出勤で済むため、1か月の半分以上が休みとなります。

まとまった休みを確保しやすいため、趣味や旅行に時間を使うことができます。通勤回数が少なくなることで、移動にかかる時間や負担が軽減され、効率よく働くことができます。また、長時間勤務に慣れることで、歩合給を最大限に活かし、収入を大きく伸ばすことができます。

仕事とプライベートのメリハリをしっかりつけたい人に向いています。特に、まとまった休みを活用して趣味や副業に取り組みたい人や、長時間勤務に抵抗がない人には適した働き方といえます。

昼日勤

昼日勤は、朝から夕方までの時間帯に働く勤務形態であり、一般的な会社員と同じような生活リズムを維持しやすいのが特徴です。月の出勤日数はおおよそ22日で、週休2日が基本となります。規則正しい生活を送りたい人にとっては、非常に働きやすい環境といえるでしょう。

この勤務形態の魅力は、日中の仕事が終われば、夕方以降の時間を自由に使えることです。仕事後に趣味や友人との交流、資格取得の勉強に取り組むことができるため、プライベートの時間を確保しやすいのがメリットです。また、一般的な会社員と同じような勤務時間で働くため、休日やスケジュールを家族や友人と合わせやすい点も魅力です。

朝から働くため、夜遅くまで働くのが苦手な人や、生活リズムを安定させたい人には向いています。特に朝型の生活を好む人にとっては、毎日決まった時間に働ける安心感があるため、規則正しい生活を維持しやすい勤務スタイルといえるでしょう。

夜日勤

夜日勤は、夕方から深夜にかけて働く勤務形態で、深夜料金の割増が適用されるため、短時間で効率的に稼げるのが特徴です。月の出勤日数はおおよそ22日で、昼間の混雑を避けたスムーズな運転が可能なため、走行距離を伸ばしやすいという利点もあります。

夜日勤の魅力は、深夜帯における需要の高さにあります。特に都市部では、帰宅するビジネスマンや飲食店の利用客、終電を逃した人々がタクシーを利用する機会が多く、比較的長距離の乗車が発生しやすい傾向にあります。また、深夜はタクシーの台数も昼間に比べて少ないため、効率的に乗客を確保できるのもメリットの一つです。

この働き方は、短時間でしっかり収入を得たい人に向いています。昼間の時間を自由に使えるため、家事や趣味、スキルアップのための勉強などに時間を充てることができるのも魅力的なポイントです。深夜帯の運転に慣れていれば、交通量が少ないことからストレスの少ない環境で働けるというメリットもあります。

夜型の生活リズムに適応できる人や、短時間で効率よく稼ぎたい人にとっては、夜日勤は非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

給与の仕組み

タクシードライバーの給与は歩合制が基本で、乗車回数や距離に応じて収入が決まります。単純に長時間働けば収入が増えるわけではなく、乗客の多い時間帯やエリアを上手く活用することで、効率よく稼ぐことができます。また、未経験者が安心してスタートできるよう、多くの会社では最低給与保証が設定されており、安定した収入を確保できる仕組みになっています。

一般的なタクシードライバーの平均年収は全国で約420万円ですが、東京では約586万円と高く、特に都市部では高収入を得やすい環境が整っています。さらに、歩合制の特性を活かし、努力次第で年収700万円以上を目指すことも可能です。実際に、一部の優秀なドライバーは年収1,000万円を超えており、トッププレイヤーとして活躍しています。

タクシー業界では、経験を積むことで売上を伸ばすコツを掴みやすくなるため、働き続けるほど安定した高収入を得やすくなります。また、夜間勤務や長距離利用など、高単価の乗車を効率よく組み合わせることで、短期間で大きく稼ぐことも可能です。こうした給与体系の柔軟性が、タクシードライバーの魅力の一つといえるでしょう。

安全面や防犯対策について

タクシードライバーは一人で業務を行うことが多いため、安全対策が重要視されています。現在、多くのタクシー会社では、防犯カメラやドライブレコーダーを車両に搭載しており、万が一のトラブルにも対応しやすい環境が整っています。特に、ドライブレコーダーの導入率は令和6年3月時点で全国92.4%に達しており、ほとんどのタクシーが録画機能を備えています。これにより、事故やトラブルが発生した際にも証拠を確保しやすく、ドライバーも安心して業務に専念することができます。

また、防犯カメラの設置も進んでおり、全国のタクシー車両のうち89.5%が防犯カメラを搭載しています。これにより、乗客とのトラブルや犯罪抑止の効果が期待され、安全な運行が保たれています。加えて、74.1%の車両には防犯仕切板が設置されており、ドライバーと乗客の間に適切な距離を保つことで安全性を向上させています。

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「ドライブレコーダー導入状況 令和6年3月31日現在」(http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/r6y3m31ddrive.pdf)

参照元:全国ハイヤー・タクシー連合会「タクシーの防犯設備設置状況 令和6年3月31日現在」(http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/r6y3m31dbouhan.pdf)

タクシー業界の今後の展望

タクシー業界は現在、大きな変革期を迎えています。近年、配車アプリの普及により、従来の流し営業に頼るだけでなく、スマートフォンを活用した効率的な乗客の獲得が可能になりました。これにより、特に若いドライバーにとっては、テクノロジーを駆使しながら働くスタイルが一般的になりつつあります。

また、訪日外国人の増加に伴い、観光タクシーの需要も拡大しています。英語や中国語を話せるドライバーの需要が高まっており、語学力を活かした働き方が今後さらに広がることが予想されます。さらに、高齢化社会の進行に伴い、ケアタクシーや福祉タクシーの需要も伸びており、介護や医療輸送に特化したタクシードライバーの役割も重要になっています。

将来的には、自動運転技術の進化がタクシー業界にどのような影響を与えるかも注目されています。ただし、完全な自動運転が普及するまでには時間がかかると考えられ、当面は人間のドライバーが求められ続けるでしょう。そのため、タクシードライバーという職業は、今後も安定した雇用の場を提供し続けると考えられます。

まとめ

大卒でタクシードライバーになる人は増えており、その理由として、高収入が狙えること、自由な働き方ができること、未経験でも安心して始められることが挙げられます。特に、若い年代におけるタクシードライバーの給与は一般的な会社員よりも高く、同世代と比べて収入面での優位性があります。

大卒でタクシードライバーになることは「もったいない」のではなく、むしろ自分のライフスタイルに合った働き方を選び、収入と自由を両立できる合理的な選択肢の一つといえるでしょう。

   
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